314人が本棚に入れています
本棚に追加
/26ページ
彼女の父親が俺に託したあの思いは、俺が伝えずともきっと彼女は理解しているに違いない。
昨夜の彼女の笑顔を見る限り、もう過去に囚われ苦しんでいるとは思えなかった。
頭の中でそんな思考を巡らせながら、急いで洗車を終わらせる。
「真尋、そろそろ積み込み行くぞ」
「うー、下まわりの洗車出来なかったぁ」
「俺もまだやってねぇし。まぁ積み込みから帰ったら続きの洗車すればいいだろ」
「まぁそうなんだけど……」
綺麗好きな真尋にしてみたら、こんな中途半端に洗車を切り上げるのは納得行かないのだろう。
しかし俺は一刻も早く積み込みを終わらせ、彼女の前から消えたいと思っていた。
抜け出せない泥濘に落ちたのが、自分自身だったことにまだ気づけぬまま───。
最初のコメントを投稿しよう!