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国道254号線の旧道から交差点を曲がり、小高い丘の上に向かう坂道。
マニ割したばかりの真尋のトラックは自慢げにバタバタと音を鳴らしながら登って行く。
しかしついつい車間距離が無くなってしまうのは、俺が少しでも早くこの仕事を終わらせ阿部遥香との接点を無にしたかったからだ。
けれど前を走る真尋はそんなことを知る由もない。
「ちょっとー、これ以上回転数上げるとエンジンに負担かかるから踏み込みたくないんだけど」
無線から聞こえる真尋の声は、すこぶる不機嫌そうだ。
しかしそれに答える余裕すら俺にはなかった。
昨夜、暗闇に浮かんだ赤い傘と彼女が一瞬だけ見せた幸せそうな笑顔が苦しいほどに俺の胸を締め付けている。
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