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「俺はもう長くないらしい」
「えっ?」
「先月の健康診断でね、白血球に異常があって今日の午前中に再検査に行って来たんだ」
「……まさか……」
「うん、癌だって」
衝撃的なおやっさんの告白に俺は何も言葉を口にすることが出来なかった。
しかしおやっさんは満足そうにタバコの煙を吐き出し小さく笑う。
「真尋や遥香ちゃんの花嫁姿は見れそうもないな」
「おやっさん……」
「だからさ不動君、俺の代わりに真尋と遥香ちゃんが幸せになるよう見守ってあげてよ」
「……………」
遠くの方でフォークリフトが行きかう音が響く倉庫の片隅。
俺は茜色に染まり始めた空を見上げるおやっさんの悲しい背中を、ただ無言のまま見つめることしか出来なかった。
導かれたこの運命から、神は決して俺を逃がしはしないのだろうと思いながら───。
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