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しかし彼女のことで頭がいっぱいだった俺は、もう一人の被害者である彼のことを忘れていた。
受付用紙に記入していると、誠也はどこまでも冷たく俺を突き放す。
「あのトラック、ドライバーさんの持ち込みなんですか? それともどこかの会社のトラック?」
俺と章吾が高校を卒業してすぐにトラック業界に進んだことは誠也も当然知っていたし、あの事故の後に俺たちが独立したことも当時の仲間伝いに聞いているはずだ。
それなのにあえてこんな風に他人行儀で聞いて来る誠也に戸惑いが隠せなかった。
しかし、これも今日だけの辛抱だと自分に言い聞かせる。
俺はもう、彼女の人生にもそして誠也の人生にも関わってはいけない気がした。
「……いえ」
それだけ答えて無言を貫く俺の態度に真尋は気を使ったのだろう。
慌てて代返するかのように口を開く。
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