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横断歩道の歩行者信号が点滅を繰り返し、やがてまた赤に変わる。
掴んだままだった彼女の腕をゆっくりと解放しながら、己が嫉妬心に支配されていることに自分でも気づいている。
頭の中ではこの気持ちに整理をつけたつもりだった。
俺がここからいなくなって、時間が経てば誠也も自分を取戻し彼女を幸せにしてくれるんじゃないかって。
だけど交差点の向こうで俺と彼女を見つめる誠也の瞳が失望に染まりながら小さく笑った。
まるで愛欲にまみれたバカな男だと誠也があざ笑っているかのように思えて唇を噛む。
加害者という立場すら忘れ、息を切らして追いかけて。
誠也が言った通りだった。
彼女に対する思いが溢れた瞬間、言葉でなど説明出来ない感情に支配され己さえも見失ってしまうものだと初めて知った。
けれどその感情を必死に押し込めて問いかける。
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