296人が本棚に入れています
本棚に追加
「ただ、俺は糸井さんの狡さが許せなかった」
真正面から彼女と向き合うことを赦されているのに。
「奪われたくないなら、どんな理由があろうと手放してはいけないんだ。
それなのに自分から手放しておきながら君をこうして縛り付けて……理不尽極まりないだろ」
本当に理不尽なことをしているのは俺かもしれないのに。
そう思いながら失笑していると、彼女は涙に埋め尽くされた瞳を真っ直ぐに俺に向けて言った。
「大和さんは強いからそう言えるんでしょうね」
「……」
今すぐ否定したかった。
俺は強くなんてない。
実際今だって崩れ落ちそうな自分を必死に奮い立たせようと頭の中で自分の定義を繰り返していると言うのに。
最初のコメントを投稿しよう!