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……どうして?
心でそう思った瞬間、真尋が運転する車がおやっさんの待つ家に着く。
「うわ、お父さんたらもう素麺茹でちゃったんだ」
「おやっさん、やる気満々だな」
「章吾も大和も素麺だけじゃ足りないかと思ったから、天ぷらでも揚げようかと思ってたのに」
真尋と章吾のやり取りに阻まれ、彼女に言葉を返すタイミングを一瞬見失う。
しかし二人が車を降りたのを確認してから、俺もゆっくりと後部席のドアを開けながら彼女に言った。
「阿部さんは俺に謝るようなことは何もしてない。謝るのは俺の方だから」
そう、彼女は何一つ悪いことなんてしていない。
ただ、大切な父親の死を悲しみ、
ただ、愛する誠也を信じて来ただけ。
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