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悲しそうに俺を見上げる座席の彼女にそっと手を差し伸べる。
純粋に彼女がそこから立ち上がるためにこの手で引き揚げてやりたいだけだった。
しかし彼女はこの手の意味を理解出来ずに短く疑問を吐き出した。
「えっ?」
唖然としながら俺を見る彼女の瞳で俺はようやく気づく。
結局俺はこうして自分の想いを彼女に押しつけているだけなのかもしれない。
誠也が言ったように、もう彼女があの場所から歩み出しているのなら。
未だそこから歩み出す術が見つけられない俺は、今の彼女にとって……
────足枷でしかない。
「ごめん、余計なお世話だった」
そう呟いて俺は彼女に背中を向けた。
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