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誠也の表情は何故か今までのように歪んだものとは違った。
彼女が歩み出したことが嬉しいような、けれどそれが少し悲しいような。
複雑な心情をあからさまに見せながらも、誠也は俺を真っ直ぐに見つめる。
「あとは不動さん、あなたがそこから歩み出せるかどうかです」
「……」
「聖ペトロのクロスは……もう捨てた方がいいんじゃないですか?」
その言葉でさすがの俺も動揺が隠せなくなった。
俺が聖ペトロの逆さ磔の十字架を肌身離さず身に着けているのを知っているのは……彼女だけだ。
しかしそう言った誠也は、ポンと俺の肩に手を置いた。
それは決して俺を責めるものではなく、まるで励ましのように感じて確信する。
やはり誠也が本当に背中を押したかったのは……俺だ。
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