299人が本棚に入れています
本棚に追加
/39ページ
きっと誠也もそれを言いたかったのではないだろうかと思った俺の思惑は、次に誠也の口から放たれた言葉で現実のものとなる。
「もう……お互いにこんなの、辞めませんか?」
そう言って誠也は悲しく笑いながら俺を見つめる。
その瞳から伝わって来るのは全てを諦めたかのような失望感。
視線を交差させる俺と誠也の間に流れる空気に阿部遥香は疑問の瞳をゆらゆらと揺らしている。
おそらく誠也の一言だけで彼女は悟ったのだろう。
俺と誠也の間にあるものが、いったい何だったのかを。
「宇梶先輩が……どんな思いでこの五年間、不動さんを見つめて来たのか分かるでしょ」
それでも俺を橘先輩とは呼ぼうとしないのは、誠也の最後の意地だったのかもしれないと思った。
最初のコメントを投稿しよう!