Act.29

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ドアを開けた彼が狭い玄関の照明を灯す。 「どうぞ」 招かれた私は小さく「お邪魔します」と言いながら、彼の部屋へと足を進めた。 玄関脇に据え付けられたシューズロッカーの上にはキーフックが立てかけてあって、そこには見覚えのある彼のトラックのキーがぶら下がっている。 それが全く使われていない雰囲気を醸し出していて、少しだけ寂しさを覚えた私に彼は笑う。 「今はまだ仕事が取れる状況じゃないけど、この仕事を辞める気もトラックを売る気もないから。 お袋のことが落ち着いたら、こっちの水屋で仕事貰おうと思ってる」 「……そうですか」 けれど彼がまたこのキーを手にトラックに乗る時は……彼のお母さんはもう……。 そう考えたら泣きたい気持ちがこみ上げた。
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