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ドアを開けた彼が狭い玄関の照明を灯す。
「どうぞ」
招かれた私は小さく「お邪魔します」と言いながら、彼の部屋へと足を進めた。
玄関脇に据え付けられたシューズロッカーの上にはキーフックが立てかけてあって、そこには見覚えのある彼のトラックのキーがぶら下がっている。
それが全く使われていない雰囲気を醸し出していて、少しだけ寂しさを覚えた私に彼は笑う。
「今はまだ仕事が取れる状況じゃないけど、この仕事を辞める気もトラックを売る気もないから。
お袋のことが落ち着いたら、こっちの水屋で仕事貰おうと思ってる」
「……そうですか」
けれど彼がまたこのキーを手にトラックに乗る時は……彼のお母さんはもう……。
そう考えたら泣きたい気持ちがこみ上げた。
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