黒縁眼鏡とキラキラ女子

4/7
前へ
/171ページ
次へ
一時はどうなる事かと思ったけど、これで無事にワークショップも開催できそう。 タブレットを鞄に仕舞っていると、軽快なピンヒールの音が目の前で止まった。 「木元さん、本当にありがとうございます。」 東栄デパートの企画営業部の田所さんが、私に嬉しそうにぺこりと頭を下げる。 つややかな黒髪がサラリと肩から落ちた。それを耳にかけながら、控えめな笑顔で顔を上げる。 相変わらず綺麗な人だな。私と違って醸し出してるオーラが優しい。 ピンヒールだって私より高いくらいなのにコケている所を見た事無いし。若いから私より骨がしっかりしてるのかな。 「この後、決起集会じゃないですが…お食事する場を設けさせて頂いたので、木元さん達もよろしければいらしていただけませんか?」 「よろしい…んですか?」 「はい、もちろん!」 満面の笑みに変わるその顔がキラキラまぶしい。 前にみっちゃんが『ネイルサロンは、若い子が多くてキツい』と言ってたっけ。 対面する相手が可愛ければ可愛い程…キラキラに押されるのよね、この歳になると。 ご招待に甘えて参加させて貰った会食は、少し照明がブラウン系のおしゃれな居酒屋で行なわれた。 大人同士の軽い挨拶から始まり、世間話、営業トーク…あちこちで歓談の輪がいくつも出来て、終始和やかに雰囲気の良い時間が過ぎて行く。 だけど…ああ、そういう事かとそこで気がついてしまった。 ずっと渋谷の側を離れない田所さん。 ほかの方と、談笑しながらもさりげなく渋谷の隣をキープしている。 …恐るべし、女子スキルの高さだ。 凄いなあ…あの半分でも私に備わってたら違うだろうに。 周りから「お似合いじゃないですか!」とはやし立てられて、田所さんがやめてください、失礼ですよ…と顔を赤くするのを渋谷は楽しげに笑ってる。 何だか満更でもなさそうじゃない?鼻の下伸びてない? …亨の時は日常茶飯時だったあんな場面。だけどそれが亨だからと受け入れていられたのに。 確実に今、思った『渋谷め』って。 器の小さい自分に感じた羞恥心。思わず、目の前のグラスを飲み干した。
/171ページ

最初のコメントを投稿しよう!

877人が本棚に入れています
本棚に追加