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…橘さんにご迷惑をかけてしまった。
そう反省している最中だと言うのに、何故か脳裏に浮かぶのは渋谷の顔。
課内のパソコンやスマホに送られているとしたら、あいつの所にも送られているのかな…。当然、見るよね。
「俺は、お前がそんな事しないってわかってるけどさ…」
「…。」
目の前の亨の言葉を聞き逃すほど、渋谷の事を考えていたんだって思う。
「…何で黙ってんだよ。お前まさか本当に?!」
肩を乱暴に掴まれて我に返って、初めて亨の異変に気が付いた。
目が少し血走り睨みつける様に私を見る真剣な顔が、昨日よりも更に凄みを増して威圧的な雰囲気を醸し出している。
「と、亨…?」
かろうじて呼んだ声は、きっと彼には届いていない。更に肩を抑える手に力がこもった。
「嘘だろ?お前が枕営業とかさ…。」
「す、する訳ないでしょ?」
「じゃあ、今、何考えてたんだよ!」
どうしよう…怖い。ゾクリと背中が音を立てる。
長年一緒に居たけど、こんな亨は初めて見た。
「お前、最近何考えてるかさっぱりなんだよ。勝手に俺から離れて行って…」
「か、勝手にって…」
「俺はお前と別れるなんて一言も言ってない!」
「ちょ、ちょっと…待ってよ。」
抱き寄せられそうになった体を思わず両手で拒んだら、手首を強い力で掴まれた。
「お前に俺が拒めると思ってんの?
どんだけ皆の中にお前を入れるのに俺が面倒みてやってると思ってんだよ。お前は俺から離れたら誰からも相手にされないんだよ。いい加減自覚しろ、自分がどんだけ嫌われ者か。お前はさ…俺の側に居て、仕事してりゃいいんだよ」
放たれた最後の言葉で全てを悟った。
亨は…私の事が好きなんて感情、これっぽっちも無かったんだ。
ただ、“自分の為に”私が欲しかっただけ。
こんなに、長年一緒に居たのに…。
近づいて来る顔に嫌気がさして、目頭が熱くなる。そのまま力を抜いてまぶたを閉じた。
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