黒縁眼鏡と疑心暗鬼

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コンコン 唇が触れ合いそうになる瞬間に割って入るノック音。 「失礼しまーす。そこまでにしといたらどうですか?真田課長。」 雰囲気にそぐわない程、明るい声が会議室内に響いた。 渋谷…? 目線の先がぼやけてよく見えない。けれど、亨の身体が私から少し離れたのは確か。 「この人の心配すんのは俺の役目なんで。」 渋谷の声がすぐそこでしているはずなのに、遠く聞こえる。 「真田課長は3課の事、全力で考えて頂いて大丈夫ですよ?」 ねえ、渋谷。あんたは誰を…何を庇ってる? 私の手首を掴んでいる亨の手を更に渋谷が握る。 「…いい加減離せよ、この手を。」 私から亨を遠ざけて、何を得ようとしているの? 亨の舌打ちが聞こえて、手首が解放される。 俯いた顔を上げる事が出来なくてバタンと乱暴に閉まるドアの音で、ああ、亨は出て行ったんだと悟った。 「大丈夫?」 俯いたままの私を渋谷が覗き込む。 「…別に渋谷の役目じゃないし。心配してもらうの」 「真理…さん?」 伸びて来たその手を払いのけて叫んでた。 「私は一人でいいの。ほっといて!」 結局、皆同じ。 ただ少し仕事を真面目にしてくれるから便利なだけで、私自身の事なんて何とも思ってないんだよ。
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