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夏稀さんは少ししょぼんとした顔をして、「え~!春子は嬉しくないの?」と私の手に自分の指をゆっくり絡ませながら言う。
「もちろん嬉しいですよ、ただそこまで私に喜んでもらえる要素ってあるのかなって」
思わず滑り落ちた言葉と同時に絡められていた指に力が込められたのを感じる。少しだけ痛かった。
「春子、そんな事言わないで。私にとって春子は凄く大切で大好きな人なの。価値なんて付けられない程に。」
ね、と確認するように小さく笑った夏稀さんに私は何も言えなかった。なんとも言えない空気が流れ出すと、教室のざわめきが大きくなり、チャイムが鳴り響いた。
「あっ…と、ごめんね変なこと言っちゃって」
手に伝わっていた熱がそっと解かれて遠くなる。
「でもね、ホントよ。私は春子の事、春子が思っている以上に大切で大好きなの」
にっこり笑った夏稀さんは先生来そうだから席に帰るね、と行こうとすると教室の黒板の方から女子の悲鳴が聞こえる何事かと思って顔を上げると、そこには緋野先生が立っていた。ヒュっと喉から変な音が出る。
冗談が過ぎる。これは悪い夢だ。
そんな言葉が頭に浮かんでは消え、ゴチャゴチャになる。
少し視線を落とそうとするとたまたま先生がこっちを向いた。
――――しまった、目が合ってしまった。
ニコッと人が悪そうな笑みを浮かべた緋野先生はぐるっと教室を見渡してこう言った。
「ハジメマシテの人も、またかよって人もおはようございます。これから2年間、このクラスの担任となります緋野秋秀です。どうぞよろしく」
どうしようもなく現実だと強く突きつけられた私は頭を抱えて項垂れるしかなかった。
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