3人が本棚に入れています
本棚に追加
『秋色乙女』
一世一代の告白。
***
「トオル、焼き芋しよーぜ」
その何気ない一言から始まる焼き芋大会。トオルの担当は落ち葉拾い。
黙々と落ち葉を集めていれば声を掛けられる。
「あ、トオル」
それは良く知った声で耳に馴染むいつも聞いている声。顔を見なくても誰だかトオルにはすぐ分かる。
「ん、なに律?」
振り返るとそこには律が居た。
律はトオルの同級生で良き友の1人だ。
「なにしてんの?」
律は不思議そうにトオルの持っているゴミ袋を覗き込む。中身は落ち葉でいっぱいだった。
「んー?落ち葉集めしてる。慶次郎が…」
律が覗き込んだせいで俺の目の前が陰る。トオルと律の身長差は丁度30cm、いつも見上げるような形になるので文句の一つでも言ってやろうかと視線を上げると思ったより近くに律の顔があった。
「まつ毛長いなぁ…」
「ん?どうした?」
不意に視線が混じり合う。
心の声が漏れ出ていたようで律が首を傾げる。そのまま数秒間何もせず目線だけが交差すると律はふわりと優しく笑った。
「…ッ!?…別になんでもない…」
熱を持ち始めた顔を隠すように俯くと吐き捨てるように呟く。律は特に気にした様子もなく落ち葉の入ったゴミ袋を持って微笑む。
「そう?ならいいけど」
今日は駄目な日だ。律の雰囲気がいつもと違って見える。胸の奥がモヤモヤする。そんな考えが駆け巡ると訳もなく恥ずかしくなり、誤魔化すように声を張り上げる。
「とりあえず手伝う!」
「え?オレも?」
苦笑いしつつも落ち葉の入ったゴミ袋を抱え直すと落ち葉集めを手伝い始めてくれる。律はいつだって優しかった。
→
最初のコメントを投稿しよう!