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「あの時の事はよく覚えているよ」
おばあちゃんは隣に座る私の顔は見ずに、真っ直ぐ前を向いて、どこか遠くの方を見ながらゆっくりと話し始めた。
「私とあの人が結婚したのは戦争が始まる少し前でね、私が十八歳で、あの人は二十二歳だった」
「おばあちゃんは、大分早くに結婚したんだね」
おばあちゃんはゆっくりと首を振る。
「あの頃は、みんなそうだったんだよ」
「そうなんだ。おじいちゃんとはどこで知り合ったの?」
「お見合いで知り合ってね、あの人が私を気に入ってくれたから、結婚をしたんだよ」
「おばあちゃんは、おじいちゃんのどんな所が気に入って結婚をしたの?」
「私は――」
と言い始めたところで、おばあちゃんは少しだけ目を伏せた。
私は、それに気付かない振りをして、次の言葉を待った。
「私は別に、どこが気に入ったとか、どこが好きになったとか、そういうのは無かったよ。ただ、あの人が、私と結婚をしたいと言ってくれたから、結婚をした、それだけだよ」
「うん、そうなんだね」
と相槌を打ちながら私は思う。
そういう感覚は、よく分からない。
私の感覚からすれば、お互いが好きだから恋人にもなるし、結婚もする。
それは多分、今の常識で、みんなそうなんだと思う。
片方が気に入ったからってもう片方が何とも思っていないのに、十八歳の女の子が結婚をするなんて、有り得ない話だと思う。
私はまだ、恋人が出来た事も、本当の恋もした事がないけれど、それは確かに、分かる。
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