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どれだけの時が過ぎただろう。数分か、数十分かも分からない時の流れに、私はただ、たゆたっていた。
不意に、おばあちゃんが口を開いた。
「私はね、今でも、しっかりと覚えているよ、あの日の、あの時のことを」
私は、おばあちゃんに尋ねる。
「それは、何時で、何があった時のこと?」
おばあちゃんは答える。
「あの人と、取りあえずの、お別れをした日のことをだよ」
おばあちゃんは、表情をほとんど変えてはいなかったけれど、それでも、どこか、顔のはじっこに、寂しさをたたえていたように、私には思えた。
「どんな風にお別れをしたの?」
「戦争が、原因なんだよ」
と、おばあちゃんは言った。
そして続ける。
「あの戦争が正しかったのか、間違っていたのか、それは分からないけれど、あの人は、戦争の真っただ中に行ってしまった。それだけは、れっきとした、事実なんだよ」
私はただ黙って、おばあちゃんの横顔を見詰めながら、次の言葉を待った。おばあちゃんの言葉に、私は相槌さえ打てなかった。
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