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「うわ~卒業式の時のまんまだ。黒板までそのまんまって凄いな」
教室の扉を開けて開口一番、思わず驚きの声が出てしまう。
「……ありがとう」
後から入って来たミユは、俯いてそれだけ言った。
「いいんだ。それより、そこ立てよ」
ミユを教壇に立たせると芝居がかった口調で卒業証書を渡す。彼女は頭を下げてそれを恭しく受け取った――卒業式の時のように。
「あたしどうしてもここに来て最後の一日を君と過ごしたかった」
「過ごせたじゃねーか。ここもお前もあの頃のままさ。ま~俺は少しおっさんになっちまったけどな」
「……もう時間みたい」
「そうか……。もう戻ってくんなよ」
「うん。でも最後に約束して、君は誰か素敵な人を見つけて幸せになって。そうじゃないとまた化けて出てきてやるんだから」
それが最後の言葉だった。言い終わった時、彼女の姿はもう教室には無かった。こうして、十年前に死んじまった彼女と俺とのたった二人だけの卒業式は終わった。
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