微笑み姫

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 微笑み姫の人気は絶大でした。美しくも愛らしいその笑顔を見れば、全ての人が、美酒に酔うかのように陽気になりました。仕事での疲れも、立ちいかなくなった商売も、夜逃げしてしまった奥さんのことも、果てには大事な人を亡くしたことまでもがどうでもよくなってしまいます。  辛いことのあった人たちこそが、朝、微笑み姫の笑顔を見に来るのです。喜びは倍に、悲しみは半分にしてくれる微笑み姫は、国民になくてはならないものとなっていったのです。それは、微笑み姫のお父様である国王陛下にとっても同じでした。  なにしろ、どんな悪法を作ろうが、どれほどの重税を課そうが、微笑み姫を前にした国民は、全て忘れてしまうのですから。しかし。 「分からない。わたくしの笑顔に、そんな力があるはずがないのです」  いつものように、城のテラスから国民の前に姿を見せる、朝の儀を終えた微笑み姫は、広間へと続く廊下で、自分の前をしずしずと歩む女王様に問いかけました。これが重大な過ちであることを、考え事をしている微笑み姫は気付いていません。
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