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 僕は店に足を踏み入れた。 「おはようございます。義弘さん」 「おはよう正太くん」 僕の声に気づいて、カウンターからひょっこり顔を出した義弘さんが、何か作業していた手を止めて言った。店の中には紅茶の良い香りが漂っているので、どうやらもう紅茶を淹れているらしい。  店のなかにはお客さんは居ない。まだ誰も来ていないようだ。  ああ。あの人の分か。  僕はそれを嗅ぎながらその横をすっと通り抜けて、カウンターの奥の部屋に入り服を着替えた。  スラックス、ワイシャツ、ベスト、蝶ネクタイ。いかにも英国執事が着ていそうな店の制服に身を包み、僕は短く息を吐いた。今日も僕の仕事が始まる。  ロッカーを閉め、やる気十分に店に出て行った僕は、店が少し賑やかになったことに気づいた。フロアに出ると、カウンターには1人お客さんが来ていて義弘さんと駄弁っている。するとそのお客さんは僕に気付いたようで、僕に手を振って話しかけてくる。 「おお正太くん。様になっとるやないか」 そんな元気のいい関西弁で話しかけてきたのは、いつもの常連客の今西さん。ザ・サラリーマンと言った出で立ちで、聞くところによると外回りの営業マンをしているそうだ。しかし、スーツを着ているが上着のボタンは外し、ネクタイも緩めているので、とてもだらしない印象がある。彼はどうやら出勤前に飲みにきたようだ。  僕は笑顔で挨拶する。 「ありがとうございます。今日は何にしますか?」 「ほな、いつもので頼むわ」
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