37人が本棚に入れています
本棚に追加
「かしこまりました」
チリン
ベルがなった。またお客さんが来たようだ。僕は入り口に向く。
「あ、いらっしゃいませ。ああ、麗子さんですか。奥へどうぞ」
ドアのベルを鳴らして入ってきた人を、僕は瞬時に誰か理解した。
一宮 麗子さん。この人もまたこの店の常連客で、毎日のように来ている。まあ、常連とは言っても義弘さんの従姉で、この店の一番のスポンサーなので、来るのは当然のようなものだが、僕にとっては少し厄介な所がある。
「正太くん。今日もいつものお願いね」
「かしこまりました。すぐに用意しますね」
彼女はそれを聞くとニコッと笑って席に着いた。
ワンピースの上からカーディガンを羽織っているいつもの服装で、相変わらずスタイルが良くて綺麗な顔立ちをしている。後で纏められた長い黒髪は、淡い水色のシュシュでポニーテールにまとめられている。
今西さんはカップを置き、麗子さんの方を向いた。
「麗子ちゃん今日も綺麗やね」
「今西さんありがとう。あなたもそのスーツきまってるわよ」
彼女は落ち着いたトーンで言ったが、皮肉っているのは目に見えなくとも分かる。
「そうか?おおきに」
しかし、まあいつもの事なので、今西さんは笑いを含んでそう言った。
僕はそれを横目にカウンターに向かった。
「義弘さん。一宮さんが来ました」
「そうか。ならちょうど良い。出来たばかりなんだ」
最初のコメントを投稿しよう!