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最上階
新居は五階建てマンションの最上階だ。
物凄く高層ではないけれどそれなりに眺めがよく、越して来てよかったと思っている。
でもこの二、三日、部屋が五階なのが辛くてたまらない。
もともとちょっと古めの物件なので、あちこち傷んでいる部分もあるとは聞いていたが、まさかエレベーターが壊れるとは。
復旧には一週間程度かかるということで、階段を使うしか自室に戻る術がない。
朝晩五階まで毎日階段…運動不足解消と思うのも辛いものがある。
それでも、俺以外の住人だって、みんな同じ苦労をしているのだからと歯を食い縛って耐えている最中だ。
帰宅時間が同じ頃の人が多いらしく、今日も疲れた顔をした住人が、それでも黙々と階段を上っていく。
二階の人は近くてていいなぁ。
三階の人は、もう普段は階段は使ってないよな。
四階さん、頑張れ。俺も頑張る。
俺を含めた五階の人、今日もよく頑張った。大変だった。でも、まだ上に行く人もいる訳だから、その人のことを思えば明日も多分耐えられる。
…あれ? 上?
最上階は五階。
屋上には、非常扉の外にある階段からしか出られないし、そもそも屋上は立ち入り禁止なので、そこの扉にはいつも鍵がかかっている。
というか、そういう造りのマンションなので、住人が普段使用する階段は五階までしか作られていない。
でも確かにさっき、上に上がっていく人がいたよな? 階段もあったよな?
何度見直しても階段は五階まで。先なんてない。
疲れすぎて記憶が朦朧としているんだろうか。
そう思った直後に、頭の上の方で、足音と、扉が開閉する音がした…気がした。
…どうやらここには幻の上階があるらしい。
眺めがよくて引っ越してきたマンションだけど、今回みたいなアクシデントもあることだし、早い内に、もっと低い階の部屋に引っ越すことを検討しよう。
最上階…完
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