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学園の敷地は広い。
博物館に近づくと、先ほどの喧噪は嘘のように静まりかえっていた。
そして、博物館から出てきたばかりであろう、もう一人の姿を捉える。
「やぁ、こんばんは。怪盗さん」
瞬間、相手の肩がびくりと震えた。
そんなに驚かせたつもりはないんだけど、申し訳ない。
「日宮(ひのみや)会長さん…」
「俺のこと、知ってるんだ」
春の夜風が俺達の間を通り過ぎる。
月は雲に覆われてしまったまま顔を見せない。
相手の姿がぼんやりと浮かび上がっていた。
「だって、会長さん有名人だもの」
返ってきた言葉を受けて考える。
影しか見えない相手の姿も交わす言葉も、どう見たって普通の女の子だ。
「どうして、結晶を狙うの?」
「…結晶が語るものが真実だとは、限らないから」
短い言葉から、伝わってくるものがあった。
おそらく、彼女には見えているのだ。俺達と違うものが。
「捕まえさせてくれる気はない?衛士も生徒会役員も総動員して二日目だからさ、どうして捕まえられないんだ…って叱られちゃうんだよね」
我ながら勝手な言葉だと、自分に苦笑いを浮かべてしまう。
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