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「最悪だ」
醜い実智子の屍体を前におもわず舌打ちがでる。
警察に報せるか。
事故なんですって訴えるか。
いや、過失ではとおらないだろうな。実智子の躰を見られたら、日常的に調教していたことは即バレる。虐待だDVだとうるさい世の中だ、こいつはマゾの性癖だったとかSMプレイの一環だったとか主張しても、とうてい信じてもらえそうにない。
かといって、このまま放っておけば、ただ捕まるだけ。逮捕され、裁判に掛けられ、有罪判決もらってジ・エンド。
最悪だ。
「どうする?」
どうするか。だんだんイライラした気分が収まり冷静になってくるにつれ、思考がフル回転しはじめる。
ミチコをどうにかするか。
屍体を消せば、殺人じたいをなかったことにできる。
土に埋める?
海に沈める?
いや無理だ、運搬の手段がない。
じゃあ屍体の身元を隠してごまかすか。
顔と指紋を潰す?
バラバラにする?
いっそ燃やしてしまうか。
いやそれでも結局、捜査の手が自分に向くことは避けられそうにない。どうやっても条件的に屍体を隠すことはできないからな。
身元が割れれば、実智子の人間関係から自分が嫌疑の対象圏内に入ってしまうことはまちがいない。
どうする?
これといったアイディアも閃かず行き詰まったので、振り向いて実智子の屍体からベッドの上へと視線を移した。
そのときふと、実智子と交わした過去の会話が脳内にリプレイされる。
──ユウくんといつ会っても恥ずかしくないように、わたし、もっと頑張るね。
──はあ? ミチコおまえ、なに勝手にはしゃいでんの。「ユウくん」とか、おまえにいわれるとキモいし。
──ごめんなさい。あなたのために、努力するから。
──うわ、こいつマジ、ウザい。
──大好きなあなたのためなら、わたしは何でもする。
──なら、いっぺん死ね。
「オッケー。実際、死んだもんはしょうがない……身代わり、だな」
そうつぶやくと、スマートフォンを手に取った。
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