36人が本棚に入れています
本棚に追加
こんな時、なんて言ってあげればいいんだろう。これから食われる子を、どうやって慰めればいいのかなんてわからない。
綾女がわずかに小首を傾げ、上目づかいにこちらを見つめる。その瞳は冷ややかで、僕はその場で木偶の棒のように立ちすくんだ。
「……私は綾女よ」
突然、彼女が口を開いた。
かたくなな態度とは裏腹に、その声は意外にも柔らかい。
「う、うん……さっき聞いたよ……」
「忘れたから何も言えないのかと思った」
綾女が視線だけで僕を傍へと呼ぶ。
「……綾女は、怖くないの?」
彼女の斜向かいに膝をつき、ためらいがちにその横顔を覗き込んだ。
「何が?」
「だから……玻璃さまに食われる……」
「玻璃神は優しいから。痛くなんてしないって」
「そんな事!」
ある訳ない。食べられて痛くないなんて、そんなはずないじゃないか……!
声にならない叫びが僕の胸の中で行き場を失う。
「……死んじゃうんだよ?」
「死なないわ。神様になるの」
「僕はそんな風に思えない」
最初のコメントを投稿しよう!