36人が本棚に入れています
本棚に追加
「……坊ちゃん。あの娘が今度、玻璃(はり)神さまの供物になる綾女(あやめ)さまですよ」
連れて来られた、普段は使われない離れ古屋の二階。女中の富子に背中を押され、僕はその子と対面した。
歳は僕と同じくらい、十二、三歳といったところか。
真っ白で色味の無い肌に、腰までありそうな長い黒髪。薄紅色の着物を細い臙脂の帯で締め、座敷の端で膝を崩して座っている姿はまるで。
(リアル日本人形だ……)
ベランダから差し込む色褪せた西日の中、僕に向けられた面差しは虚ろで愛想笑いすらない。
……そんなの当たり前。
これから彼女は供物として捧げられて、玻璃さまに食われるのだから。
この子がどこから連れて来られて、どんな事情でこんなお役目になったのか僕にはわからない。
これがどうあっても覆せない事なのも知ってはいるけれど。
(やっぱり可哀相だ……。この子は自分が生贄になるってこと、わかってるのかな……?)
「さ、坊ちゃん、お傍へ……。お時間までお慰めしてあげてくださいね。それが当家の子供のお役目ですから」
富子がまた僕の背中を押し、静かに一礼して部屋を出て行く。スウッと襖の閉まる音が、肌をゾワリと撫でていったような気がした。
「……あ、の……」
最初のコメントを投稿しよう!