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「供物の子供を食べないと滋養がつかないんですって」
「供物なんて、自分で言わないでよ」
僕がクシャッと顔を歪めると、綾女も不安げに眉をひそめた。
「そんなに……痛いのかな」
「痛いよ……決まってるじゃん」
「じゃあ噛んでみて」
綾女がついと細い指を差し出した。
「え……?」
「食べられるってどんなものか、知っておきたい」
真剣な黒い瞳に囚われて、僕は震える手で白い指先を取った。そして中指の先をそっと咥えてみる。
「……それじゃだめ、ちゃんと噛んで。……ほら」
綾女の指が焦れたように口の中に深く差しこまれ、僕の頬の内側や舌を弄ぶ。
ちゅぷ、と自分の口から洩れる音とその感触に、熱いざわめきが全身を渡っていく。
「優しいんだね……。でも私、知りたいの」
そして綾女は、おもむろに腰の帯を解いた。
さらりと分かれた着物の中は青白い陶器のような肌、そして淡いふくらみに添えられた桜の花弁。
「肩を噛んで。思い切り……だよ」
綾女が僕の頭を抱え込んで、着物を滑り落とした右肩に押し付ける。
乳飲み子が母親を求めるように僕は細い腕にしがみ付き、言われるまま華奢な肩に歯を立てた。
「もっときつく……。知りたいから。知って欲しいから」
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