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肩を噛んだ時、僕の全部が綾女の蕩けるような甘さに酔った。
「そうよ。わかったでしょう」
初めて見る、綾女の笑顔。
その瞬間、僕の指が彼女の口の中でゴリッと噛み千切られた。
「……ぅふ……ふふ……。ぁふう……ふふふふふ……」
綾女が目を見開き、三日月になった唇から僕の赤い指がはみ出る。それを伝った涎がキラキラと光る。
彼女の恍惚とした笑みが、僕の芯を甘く捩じ切ってゆく。
「はは……う……っ、ははは……」
次に綾女は僕の肩を噛んだ。
嘘のように、夢のように、肉がほろりと裂けて可愛らしい口がそれを咀嚼する。
僕を満たす痛みと悦び。
綺麗で穢れのない綾女が圧し掛かり、白い背中や細い腰がしなる度に、僕の身体は疼くような熱を知る。
黒髪が踊り、陶器の肌が薫り立ち、紅玉の唇が僕を食らう悦びに哭く。
(……生贄は……僕)
社祠の格子から差す月の光が、肉を剥がされていく僕を照らす。
──そうだ……明日は初めての試合だった。
家に帰ったらラケットを磨かなくちゃって思ってて……みんなと別れて……それから……?
「……優しい子。この訶梨帝母(ハーリティー)の糧となれ……」
霞んでいく視界の中、綾女の美しい紅い牙が見えた──。
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