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「ネムだ」
そう呟くと、突然駆け出してしまった。仕方がなく、追いかける。運動不足の彰俊はすぐに息切れしてしまって立ち止まりゼイゼイ肩で息をした。アキがどんどん小さくなっていく。
「情けない奴だ。それだから、ウスラトンカチって言われるんだ」
息苦しくて反論出来ない。
――まったく、いつ俺が『ウスラトンカチ』だなんて言われたんだ。言われたとすれば時歪、おまえだけだろう。
彰俊は大きく深呼吸をすると、ゆっくりと歩み始めた。アキはこっちを向いて手を振ってきた。その足元には猫らしき姿も窺える。夢で見たネムなのだろうか。また獅子になって脅かすんじゃないだろうかと不安が過ったがそれはないだろうとすぐに自分の考えを否定した。
「逢えた。ネムに。嬉しい」
アキの片言での話し方は直らないのだろうか。いや、これはこれでいいのかもしれない。アキの個性だ。きっと本人も直す気はないのだろう。
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