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「また逢ったな。吾輩も先日のことが気にかかっていてな。夢なのか現(うつつ)なのかと気の赴くまま来てみたらアキがいてびっくりした」
「縁とはそういうものですよ」
慈艶が笑みを湛えていた。
「やはり、いい女だ。実はおまえも惚れているんじゃないのか。浮気者が」
彰俊は口に人差指を当ててかぶりを振った。
「なんだ、おいらに指図するな。ボケボケのくせに」
まったく、浮気者だのボケボケだのウスラトンカチだのよくまあいろんな悪口が出で来るものだ。ある意味感心してしまう。時歪の言葉はいつも通り無視をしてアキに声を掛けた。
「久しぶりに逢ったんだろう。ふたりで話してきたらどうだ。俺たちは帰るからさ」
アキはネムに顔を向けて、再び向き直ると頷いた。
「では、昔話でもしながら歩くとしようか」
ネムはお辞儀をすると歩き始めた。アキと一緒に。
「なら、おいらは慈艶と散歩でも」
「ダメだ。帰るぞ」
「ふん、融通の利かぬ奴だ」
帰り道、時歪はずっとぶつぶつ文句を言い続けていた。それをおかしそうに眺める慈艶の姿があった。
「では、わたくしは野暮用があるので失礼しますね」
「なに、待て。おいらとデートを」
「すみません」
慈艶は丁寧に断るとスッと姿を消した。
時歪は沈んだ顔をして胸ポケットに落ちるようにして入り込んだ。
「あ、慰めなどいらんぞ」との声がポケットから微かに聞こえた。
***
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