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背後で皆がミコに声がけしているようだ。
「ミコちゃん、聞こえる。目を開けて」
「おい、猫女。しっかりしろ。生きているのか。ほら、化け猫の力をみせてみろ」
「おい、時歪。もうちょっと言い方ってもんがあるだろう」
「ミコ、大丈夫か。ネム、ミコ好き。心配ない」
――ふっ、ミコのことを好きだなんて余計なことを。まあ、間違いじゃないがな。あいつらも良い奴らだな。慈艶、時歪、彰俊、アキ、ミコのことを頼むぞ。
ネムは黒い影に対して咆哮を放った。攻撃とは違う、春風の如く優しくぬくもりある咆哮を。
「やめろ、やめろ。ああ、私は……私はそんなつもりじゃ……」
黒い影が優しさの渦に身悶えしている。
「成仏するのだ。お主は、十分苦しんだのだろう。そして、来世に希望を委ねるのだ。ほら、お主にもあの者たちの優しい声が届いているだろう」
黒い影がチラッとミコを励ます者たちに目を向けた。
「ミコ、ミコ。俺を吹っ飛ばしておいて、あの世になんか行くんじゃないぞ」
草むらから真一の声が飛ぶ。
「ふふ、ほら、あそこにも優し過ぎる奴がいる。吹き飛ばされても相手を思いやる気持ちとはいいものだろう。お人好しの極だ」
一瞬だが黒い影が揺らめき笑みが浮かんだように見えた。春風の咆哮の効果もあるのだろうが、ここに居る者たちの優しさを感じ取っているのかもしれない。
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