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草むらから真一が這いつくばって出てきた。黒い影のもとへ近づいている。真一は何をしようとしているのだろうか。
「ちょっといいか。恨むってのも辛いことじゃないのか。もしよかったら、俺が愚痴を聞いてやってもいいぞ」
真一の言葉に、黒い影が少しだけ色を薄めて人の姿になりつつあった。
「ふふふ、あなたのようなお馬鹿さんは初めてです。そんなことを言ったらあなたに憑りついてしまいますよ」
「それは勘弁してほしいものだな。けど、友達ならいいぞ。いつでも来い」
漆黒の影だったはずが、いつの間にかはっきりと女性の姿になり笑みを湛えていた。
「私ももっと早くあなたたちのような人に逢っていればよかった……」
その言葉を残して女性の霊は景色に溶け込むように姿を消した。
「まったく真一ときたら、無謀なことを」
「いいじゃないか、うまくいったんだから」
「まあ、そうだな。それにしても不思議だな。真一の言葉は思わぬ力があるようだな」
「そんなことはないさ。ネムのあの優しい気を纏った咆哮が俺の言葉に力を与えたんじゃないのかな。おそらくそうだ。あ、それよりもミコは大丈夫なのか」
ネムはハッとしてミコのもとへ駆け付けると、スヤスヤと寝息を立てているミコがいた。
あとから追いついてきた真一と顔を見合わせると、思わず吹き出してしまった。真一も他の皆もつられて笑いだしていた。
心配して損をした気分だった。ミコらしいと言えばらしいけど。
「まったく、阿保らしいったらありゃしない」
時歪だけは、文句を言っていたが顔は笑いを堪えている様子だった。
なんとか一件落着言えるのだろう。
ネムは慈艶と目を合わせて頷き合った。
「さぁ、帰るとしよう」
***
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