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大きく深呼吸をひとつだけして、意を決する。
きっと大丈夫だ、早く見てしまえ。そう思った矢先、光が近づいてきてまたしても躊躇う心が生まれてしまう。目の端に何者かが動く気配がした。息遣いもするような。思わず瞼を閉じてしまう。敵意はないと信じたい。ただ、さっきの咆哮は獣の声だった。ならば、このまま寝ていていいものか。いきなり噛み付かれて即死なんてことも。
彰俊はブルッと身体を震わせた。
獣臭もするような。気のせいなんかじゃない。
――ああ、近い、だいぶ近づいて来たぞ。ダメだ、俺は死ぬのか。いやそうじゃない。殺すつもりならとっくに噛み殺されているはずだ。早く見ろ。恐ろしい者じゃない、大丈夫だ。強く祈った。施錠は完璧にしてある。大丈夫だ。獣が侵入するはずがない。きっと怖いと思い込む心が大きな獣を思い浮かべているだけだ。
彰俊は薄目を開けて右側からの光にゆっくり首を動かしていくと、身体が硬直してしまった。まるで石にでもなってしまったかのように動きがとれない。一気に鳥肌が立ち、背筋に悪寒が走る。
そこには、光を纏ったライオンの顔があった。
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