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「お主は誰だ。ここはどこだ。吾輩はネム。慈艶(じえん)に導かれて来たのだが、どこに来てしまったのだろうか。ところで、お主大丈夫か。顔が青白くなっているぞ」
――これは夢だよな。ライオンが俺の部屋にいるわけがない。悪い夢だ。言葉を話すライオンだぞ。ありえない。物語の世界でしかありえないことだ。それにジエンって誰だ。
「うふふ、どうやら驚かせしまったようですね」
「うむ、そうらしい。慈艶よ、きちんと説明してくれ。この者も理解不能な事態だろうが、吾輩もさっぱりわからないぞ」
「そうですよね。けどわたくしも今日、初めてここへ来たものですから」
「まったく、おまえは。獅子の姿でとの話だったから来たものの。この者を驚かせたかったのか」
そんな会話のやり取りのあと気づくと、光が小さくなり一匹の三毛猫に変化していた。その隣には、紅色の地に菊と桜の刺繍を施した着物の女性の後姿が暗闇にぼんやりと窺える。
もしや、これは……。いつもの依頼人が来る予兆の夢か。
そうだ、そうに違いない。ならば、怖がることはない。
彰俊は少しだけ冷静さと取り戻して、嘆息を漏らす。
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