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あれ、誰もいない? と思いきや、突然夢で見た慈艶という女性の姿が現れた。
「お邪魔しますよ」
慈艶は微笑みを浮かべてウィンクすると、滑るようにして奥の部屋へと進み座り込んでしまった。彰俊はドキッとしつつ慈艶の背を眺めた。あの色っぽさは罪つくりかもしれない。
「ほほう、えらいベッピンさんじゃないか。おいらはトキヒズミ。よろしくな」
「はい、よろしく」
慈艶は微笑み、「ところで、そっちにいるのがアキちゃんですか」と尋ねた。アキはコクリと頷き怖い笑みを浮かべた。
慈艶はアキを見つめて言葉を続ける。
「アキちゃんに、吉兆と凶兆の星が見えます」
玄関先から戻り「アキに、ですか」と彰俊は尋ねた。
頷く慈艶が、スッと姿を消してそこに方位磁針が現れた。カタカタと音を立てて方位磁針の針が揺らめきグルグルと回転し始める。
「これがアキに何事かが起きる予兆の証です」
「ふむ、なるほど。だが阿呆に何か出来るのか」
時歪の言葉を無視してアキに目を向ける。困惑している様子が窺えた。
「おやおや、酷い物言いですこと」
「いつものことですから、気にせずに」
「ふん、気にしないのならもっと言ってやる。阿呆、唐変木、ボケボケ、甲斐性なし。どうだ腹立つだろう」
――聞こえない、聞こえない。
時歪の暴言を無視していたら、アキが時歪を蹴り飛ばしていた。
「これで、静か」
「そうだな、アキ」
時歪は隣の部屋まで飛ばされて目を回している。しばらくはおとなしくなるだろう。ちょっとは時歪に同情しないでもないが、あいつは頑丈だから大丈夫だろう。
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