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7
「ずっと待ってるから」
母さんの声がつづけて言う。
「あなたが素敵な人を連れてきてくれるのを」
わしは黙ってタバコの煙を吐いた。
「ずっと、ずっと待ってるからね……」
吸い殻だらけの灰皿でタバコの火をもみ消し、わしは母さんが立ち去るのをひたすら待った。ドアを乱暴に叩く音が部屋に響く。バリケードのイスや冷蔵庫が激しく揺れる。日に日にアグレッシブになっていく母さん。老いた体にムチ打ち、わしは息を荒げながら必死でバリケードが崩れるのを塞ぐ。
「母さん、なにを言っても無駄だろうが、この体で今さら結婚しようなどと思わん。さっさと帰ってくれ!」
怒鳴り散らすと、血反吐が飛びだした。病気が進行している証拠だろう。
「……ずっと待ってるから。ずっと待ってるから。ずずずずずずずずずずずずずずずっと!」
母さんの妄言はとまらない。壊れたレコードのように。ゾンビ化した彼女には、もう聞く耳はなかった。
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