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「ずっと待ってるから」
彼女は言うなり、あーん、とかわいい口を大きく開けた。小柄な両手で私の机をがっしりつかみ、この場から動かない意志を示す。給食のデザートである、プリンを狙っているのはあきらかだった。
「お行儀が悪いですよ。恥ずかしくないの?」
スプーンを置き、私は諭すように尋ねる。
「ぜんぜん。だからプリンちょうだい」
彼女は身じろぎもせず、私の顔をもの欲しそうに見つめていた。
「いけません。いいですか? もし私がプリンをあげたら、あなたを特別扱いしたことになります。となると、平等であるはずの学校教育が成り立ちません。五年生にもなれば、それぐらいわかりますよね」
「でも、プリンが食べたいんです」
彼女は必死だった。ぴょんぴょん飛び跳ね、私の机をガタガタ揺らしてくる。
なんて卑しい娘! 私は怒りに任せてスプーンで一気にプリンをかきこんだ。
「先生は悲しいです。あなたがそんな生徒だったなんて」
「あたしも悲しいよ。先生がプリンを全部食べちゃって」
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