乱鴉

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秀山禅師に言われた通り円覚寺に入ると、遅くなってしまったが湯浴みをして二人で薬石を取る。 そもそもこの円覚寺は、秀山祖師が開いた寺である。 今は聖福寺の住職となっている秀山の跡を大方が引き継いで住じて居るので、彼にとっては慣れ親しんだ我が家のようなものだ。 場所も聖福寺から二町歩程南に歩く程度なのでとても近い。 しかし、あえて聖福寺内に泊まらせず円覚寺へ移したのには理由があるはずだ。大方はそうにらんでいた。 (まさか本当に聖福寺へ難が降りかかるのを厭うての事じゃあるまい。師匠はそんな狭量なお人じゃないからな) 座禅を組みながら思索していた大方は、ふと気になって立ち上がると、隣の部屋へ続く襖をそっと開ける。 一筋の明かりが隣の部屋に敷いてあった薄い布団の上に落ちる。その先には静かに寝息を立てる少年のあどけない顔があった。 元々は肥後の豊田の庄で野を駆け回っているような、のびのびとした生活を送っていた十郎である。 この数日の怒涛のような展開に少なからず疲れ果てていたはずだ。それでも立派に武士の子としての立ち振る舞いをくずさなかった。
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