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見張りに立っている探題の兵士が胡散臭そうに視線を投げつつも何も言ってこないのは、お経をあげている僧侶がこの辺りでは有名な禅寺の僧侶だからだろう。
こそこそと耳打ちをしては、少年を盗み見るようにしている。
「我等礼敬。為我現身。入我我入。
仏加持故。我証菩提。以仏神力」
しかしそんな視線を気付きもせぬように、中央の生首を睨み付けていた少年の瞳には怒りの炎が燃え盛っている。
まるで目の前の生首と真剣で仕合っているかのような形相だ。
「利益衆生。発菩提心。修菩薩行
同入円寂。平等大智。今将頂礼」
小柄な禅僧の力強い読誦が終わる頃には、気付けばあたりに人はほとんど居なくなり、元々薄暗かった空は夕暮れに暗くなっている。
「そろそろ寺に帰るか」
僧侶はにこりと微笑むと、少年の肩に優しく手を置いた。
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