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「カラスが……」
少年がにらみ据えた先には、人が減ったのをいいことに地面に降りて生首をついばむ鴉の姿がある。
「カラスがおやじ様の首を食ろうとる」
僧侶の手のひらの下で、肩が震えていた。
僧は微笑んでいた口元を下げると、諭す様に肩を叩く。
「これもまた世の定めだ。無常だが、御父上らは一生懸命に生きられた。覚悟を決めて死ぬということは、覚悟を決めて生きる、ということでもある。それは、後に続く者の力になる」
僧侶の言葉を聞いてか聞かずか、少年はぎゅっと拳を握った。
「少弐と大友……」
ギリギリと食いしばった奥歯の隙間から絞り出すようにうめく。
「……絶対にゆるさん」
少年の言葉に僧が軽く首を振り、ため息を吐くと辺りを見回した。
探題館に灯りが灯り、犬射馬場の脇を流れる鉢の底川の水面に揺れる。
禅僧に背を押されながら、春の夕暮れの野辺を聖福寺へと歩いた。
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