乱鴉

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聖福寺―― 建久6年(1195年)に日本の臨済宗開祖の栄西が南宋より帰国後創建した、日本最初の本格的な禅寺である。 山門には後鳥羽天皇により贈られた「扶桑最初禅窟」の額がある。 そのご宸筆の扁額が掛かった山門を潜り抜け、本殿へと向かった。すでに薬石(夕食)の時間は終わってしまっているようで、本堂には老若の僧達が整然と並んで座禅を組んでいる。 その中央に、第22代祖師秀山禅師が静謐な佇まいで座禅を組んでいた。 本堂の階段の下で、二人は一同の座禅の邪魔をしないように待つ。春とはいえ、日も落ちると少し肌寒いが少年はじっと耐えている。 程なくして座禅が終わると、僧達はそれぞれの房で夜座をするべく散らばって行った。 若い者が通りすがりにチラチラと向ける好奇の目を一顧だにしない少年を見て、隣に立つ僧侶は内心感嘆しているところ、上がってきなさいと落ち着いたよく通る声が本殿から掛かり、二人は階を昇った。 「やめておけと言うたはずじゃが、どうやら見てきたようじゃな、大方」 二人が向かい合う様に座ると、秀山は穏やかな笑みのまま厳しい言葉を掛ける。 平伏して弁解しようとする大方と呼ばれた僧を、少年が透き通った声で遮った。
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