急転

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「おうよ。それでこっからは仕事の話だ。実は菊池家とはこれまでも良い商売をさせて貰っててな、今後も良い関係を続けて行きたいんだがこの情勢だ。しばらくは九州で菊池は肩身が狭い事になるだろう。だがな、他の家はしょせん雑草だ。幹になるもんがねぇ」 ごくり、と武光の喉が鳴った。 栄助の小柄な体がやけに大きく感じる。 「……しばらく、馬鹿息子を慶元府に派遣しようと思っている。お前にはその航海に随行して貰いてぇ。どうだ?商売を知りたいんだろう。俺としちゃ菊池家の中に商売の事を理解してくれる人間が欲しい。武時殿は良く理解してくれたが武重殿はそうでもない。ちょっと困ってるとこだったんだ」 願ってもない話だった。知りたいと思っていた事を、栄助の方から学ぶ機会を与えてくれているのだ、断る理由などない。 「願ってもない事です。ありがたく、お受けします」 もう一度姿勢を正すと、深々とお辞儀をした。 「壮吉のこたぁ気にするな。ってもお前さんならねじ伏せる力があるから心配もしてねぇがな。奴も上に立つ人間として越えなきゃならん壁がある。……いい刺激になるだろうよ」 時間を取らせて悪かった、といって栄助は手を振って武光を下がらせた。 栄助が縁側から庭の空を見上げる。 近頃ずいぶんと蒸し暑くなって来た博多の空に嵐を呼ぶつもりなのか、厚い雲が南西から押し寄せて来ていた。
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