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「無念を」
「とは、つまり?」
「父上は皇上にお仕えしている。しかし世の中は君をないがしろにし、一部の武家が権力を欲しいままにしている」
「ふむ」
「父上は今上陛下から密勅をお受けになられた。……幕府を倒せと」
「それは存じておる。武時公は少々用心が足りておらなんだ」
ムッと、十郎が不快な顔をすると、年相応の若さが滲み出た。
「そんな顔をするでない、儂は心配しておったのよ。時間が無かったとはいえ、肚の据わらぬ少弐や大友を軽々しく信じるとは」
秀山祖師が言った事は事実だった。
後醍醐天皇が全国に綸旨を発したのはほんの11日程前である。
武時としては、後醍醐天皇の隠岐脱出は身の震える程の喜びであったであろうが、同時に焦りも覚えた。
密勅は護良親王経由でもっと前に貰っていた。
状勢はまだ幕府が優勢であり、どちらに利があるか判断が難しいところで、武時は躊躇してしまったが為に蜂起が遅れてしまったのだ。
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