始まりの音

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それは、いつからの約束だったのだろう。 久々に見たあの懐かしい夢。 あの頃は、その姿も声も届かなかったけれど。 いつか、逢えるだろうか。 夢じゃない現実の何処かで。 それは、幼い頃に見た夢だった。 遠くで誰かが呼んでいる。 何かを伝えようとしているのに、私にまで届かない。 時間と共に沢山の雑音と人混みが幻を見せる。 本当の夢を掻き消すように。 「あぁ…まただ…。」 また、わからなかった。 そんな朝が来るたびに、私はいつも寂しくなっていた。 ボロボロのアパートの低い天井を、小さな私は見つめながら思い出そうとした。 たぶん、大人の人だった。 知らない人なのに、何故か懐かしい感じがした。 何処の人なんだろう。何を言いたかったんだろう。 ろくに映りもしないテレビの雑音の中、唯一自分が居られるすみっこでCDラジカセの音を聴く。 貧しい日々の中、それでも時は過ぎ、天井は更に低くなっていた。 そして忙しさに押さえつけられ、夢を見ることもなくなった。 大人になれば、願っていた幸せがあると思っていた。 けれどそれは幻でしかなかった。 大人になった私はもっとボロボロになり、沢山のものを失い、心は日々傷んでいった。 「もう、いいか。」 そう思った。 (ここでもう、いいや。) と。 すると、何故か置き去りにしたものを思い出すようになった。 昔、好きだったものを。 まるで何かを探すように。 そんなある日。 訪れた古本屋で一枚のCDに目が行った。 初めて見たのに私はそれを手にしていた。 音も知らないのに、呼ばれたような気がして。 聴いてみると、その音は何故か懐かしかった。 初めて聴いたものなのに、そんなに古いものではないのに。 その日、私は夢を見た。 あの、ずっと見れなくなっていた幼い日の夢。 まだ、遠くてはっきりとは見えない。 けれど、あの人だと思った。 声が、微かに聴こえる。 でも、言葉が届かない。 知りたい。それが夢でも。 目が覚めると、私は迷いなくその音を追いかけ始めていた。 どうしてかはわからないまま。 ずっと昔、何処かで聴いていたのだろうか。 ついに、私は思いきってその音の今を聴きに行った。 ステージから遠く響くその音は、昔とは違う音なのに、とても懐かしく心地好かった。
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