始まりの音

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その夜、その音を抱きしめて眠りにつくと、夜明けのような光が私の全てに広がった。 あの夢だ。 あの人がいる。 けれどいつもと違う。 私の近くで、声が聴こえた。 「ずっと、待ってるから。」 やっと、届いた言葉だった。 やっと、見えた姿だった。 夢を見る前に映ったあの音の人。 同じ声だった。 同じ笑顔だった。 とても嬉しい気持ちなのに、これは夢だという現実を思い出して切なくなる。 それでも、伝えたかった。 「ごめんね。」 やっと、聴こえたのに。わかったのに。 「これ以上、そっちに行けなくて…。」 私にはないものが多すぎた。 「でも、夢の中でも、届いて嬉しかった。 ずっと、逢いたかったから。」 でも、もしも、願いが叶うのなら… 此処でない場所で逢えるなら… 「ずっと、待っているよ…何処かで…。」 少しずつ光が滲んでゆく。 また、遠くなってゆく。 「ありがとう。」 精一杯、笑顔を送った。 けれど目が覚めた時、何時からか沢山の雨が私に流れていた。 何もない私に出来ることは、ただ歌うことくらいだった。 聴こえはしないだろう狭い小さな箱の中で。 でも、あの夢のように、何処かで、届くことを願って。 そして月日はまた去り、私は独りきりの路を歩いていた。 すると、突然私を呼ぶ声がした。 誰も私を知らない場所で。 振り返ると、その人はいた。 あの夢よりも近くはっきりと、更に深みを増した素顔で。 眠っていたキセキが目を醒ます。 聴こえた言葉はどちらからだっただろう。 「おかえりなさい。」 微笑みながら重なりあう、懐かしく優しい音達。 今、これからへと響き逢う。
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