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「ていうか、その、兼城。
いきなり蹴って……悪かったな」
「え?」
自分への呼び方が変わった。
洋一は手を止めて相模を見ると、彼はそっぽを向いた状態のまま横目で自分を見ていた。
「何だよ。思いっ切り蹴られた腹が痛むから許せねぇのか?」
「いや、それは許すよ。ただ、ちょっと気になったことが
「許してくれんなら、それ以上追求してくんな」
「……」
相模が肩まで湯に浸かって完全にそっぽを向くと、洋一は正面の鏡に向き直ってシャワーのホースを掴み体に付いた泡を洗い流した。
「相模さん」
「何だよ?」
洋一はシャワーの蛇口を閉めると、相模の隣にあいた浴槽のスペースに入って湯に浸かりながら話し掛ける。
「どうしてあの時、俺を蹴ったんだよ?何か、訳があるってことだよな?」
「気になるのか?」
「あぁ」
相模が洋一のほうを向いて問うと、洋一は頷いて彼を見た。
「ちょっと待ってろ」
すると、相模は一旦浴槽から体を半分出して浴室の扉を開けると、脱衣所を様子をそっと見た。
脱衣所内とその外には誰もいない。
相模は確認して頷き再び扉を閉めると、肩まで湯に浸かり少し困ったように眉根を寄せて洋一に言い出した。
「これはあんまり人には見せたくねぇんだけど、バディのアンタだから見せてやるよ。
そのさ……。あんま嫌な顔……、すんなよ?」
洋一が黙って頷くと、相模は洋一に背中を向け、洋一はその背中を見て少し目を背ける。
それには、一般的に見られる手術痕とは明らかに掛け離れた規模の大きく×を描くように斬られた傷痕が、痛々しく残されていた。
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