青い警報機

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 次の列車まで待ってみようかとも思ったが、その時青いランプが灯るのを見られるとは限らないし、そもそもたかが踏切の警報器だ。色の違いごときで見物に来ているのが馬鹿らしくなり、俺は踏切に背を向けて歩き出した。  その背中に凄まじい悪寒が走った。  踏み切りの向こうに何かがいる。一瞬だけ正体を確かめようと思ったが、体が後ろを向こうとしない。そしてすぐに意識も、振り向いてはダメだと騒ぎ出した。  警報機の音が頭の中でこだまする。カンカンと響く音が逃げることを勧めてくる。  でも足が動かない。その間にも後ろの気配が濃くなる。  何かが背中に滴り落ちてくる感触がする。でも逃げられない。 「こっちに!」  ふいに叫び声が聞こえた。  誰かが俺の手を掴み、強く引っ張った。それと同時に固まっていた足が動き出す。  見えない何かに束縛されていた全身に自由が戻り、俺は全力で走った。  …どこまで逃げただろうか。  すっかり息が上がり、ももう足が動かないという状態になり、俺は道路の真ん中にへたり込んだ。  もう、あの時感じた悪寒はしない。どうやら俺はあの得体の知れない何かから逃げ切れたようだ。  それもこれも、俺の手を引いて走り出してくれた人のおかげだ…。  今になってやっと、俺をあの場から連れて来た人のことを思い出し、俺は隣の相手に視線を向けた。けれどそこに人影はない。周りを見回しても誰もいない。  暫く探したが結局その人は見つからず、俺は首を傾げながらビジネスホテルに戻った。  フロントに顔を出すと、ホテルマンがぎょっとした顔で俺を見た。道端に座り込んでしまったから、スーツが土や埃で汚れてしまったせいかと思ったが、そうではなかった。  指摘された気づいたが、俺のスーツの背中には、黒に近い赤い染みが浮いていたのだ。  何かの汁が滴り落ちてきたような形の染み。それに先刻のことを思い出し、ここで働いているのなら何か知っていないかと、俺はホテルマンに踏み切りのことを聞いた。  その結果、あの踏切と警報機はいわくつきのものだということが判った。
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