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全てのものには目が付いているのです──物でも、者でも。
それは至極当然のこと。
だから、ものは姿を保とうとする。誰かが居なくても、何かが無くても、そこには必ず目があるから、見られているから、私達は形を保っている。
本当に何も目のないところに行ったら、きっとものは溶けて消えてしまうのです。
──そうでしょう?
なんて。それでも、私は知っているのです。
私には見えている、物々についた目は、しかし他の人には見えていないことを。それを知ったのは、一体いつのことだったでしょう?
「あ、信号が青に……」
過去に思いを馳せるのを中断し、私はまた次へと一歩、足を踏み出すと。
御嬢様学校、等と噂もされる女子校の、セーラー服の裾がふわりと僅かに膨らんで、同時に背中に流れた髪が揺れる。
足元を見ると、アスファルトを構成している石の一つ一つにぐりんとした目がついていて。
目がある事を知りながらも、私は足を踏みおろすのです。『カツッ』と、『ガリッ』と、ちょっぴり『ぐちょり』を混ぜ合わせた音が鳴って、私という存在が、これまた目のついたローファーを通して、アスファルトの目を潰したのだということを教えてくれる。
でもしかし、私の一部を踵からそっと浮かせると、面を滑らかに整えるようにまた目は創られていくのでした。
それが、私の知る、目のこと。
『他人の目について極度に恐れすぎるあまり、幻覚の目が見えている』
違いますよ、って、今のは一体いつの記憶の誰の台詞?
精神の可笑しいのではないか、なんて笑わないでください。
私はさほど他人の目を恐れてなどいないのですから。
またもう一歩、踏み出して。
ぐしゃりと潰した目を更に抉るように、くるり、と腕を少し広げながら、なかなか優雅に一周回る。
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