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「お父さん…ごめんね、あんな約束をさせちゃって。」
私はぐっと拳を握りしめて決心すると、ずっと父に伝えたかったことを口にした。
「子供の頃は約束を守ってもらえなかったことが悲しかったけど、今は…お父さんに申し訳ない事をしたなぁって思って…。」
私の言葉に父は黙って耳を傾ける。
「…お父さん、約束した頃はもう自分の身体の事わかってたんじゃない?それなのに…。」
目の前の光景が涙で滲む。
「…自分の命が関わっている上に守る事が難しい約束…すごく酷な約束をさせて…お父さんを苦しませたんじゃないかって…。」
私がそこまで口にした時、父はそっと私の頬に手を触れて親指で涙を拭った。
「そんな事を思う必要はないよ…確かに約束をした頃には余命を宣告されていたけれど…。」
そう言いながら父は私の頭にポンポンと軽く手を触れる。
「…あの約束を励みにして、医者に言われた余命より長く生きられたんだ…飛鳥との約束は生きる力をくれたんだよ。」
父は微笑むと、再び私の涙を拭ってくれた。
「…でもやっぱりだんだんと身体が悪くなって…奇跡は起きないんだと…死ぬのを待つだけなんだと思っていた…でも…。」
父が私の手をとる…自分が成長したからなのか、思っていたよりも小さく感じるけれど暖かい手…。
「…別の奇跡が起きた…もう見ることができないと思っていた大人の飛鳥に会えた…。」
父の言葉に、私は手を握り返して頷いた。
そんな私を見て父は再びやさしく微笑むと、ゆっくりと両瞼を閉じた。
「…会えて嬉しかった…ありがとう…飛鳥…。」
父がそう呟いた次の瞬間だった…父に繋がっているモニターが異常を表し、警告音を鳴らし始めたのだ。
恐れていた音が聞こえ、私の背筋に冷たい風が走り全身が強張る。
「…お父さん…!?」
私は父に声をかけたがそれに応えてくれることはなく、父は目を閉じたまま動かない。
私は震える手で必死にナースコールのボタンを取り、何とか手にするとカチカチと何度も押した。
「すぐ行きますねー!」
すでに状況を察知しているらしい看護士が、ナースコールで何も尋ねることなくそう答える。
私は震えの止まらない手で再び父の手をとった。
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